堀口コラム 閑話

2022年5月18日 更新

東洋医学

 韓国版「ドラゴン桜」では、生徒の一人が韓方(漢方ではありません)医を目指すため、別の大学を受験します。一方、日本のドラマ「ドラゴン桜」(第1シリーズ)では、全員、東大を受験します。自分の進みたい本当の道を見つけて、そちらを目指す。原作漫画には、そのような要素は皆無ですが、韓国版のオリジナリティがあり、それも良いかと思います。「韓方(専門)医」とは、韓国の伝統医学である韓医学を実践する医師のことで、大韓民国における国家資格である(ウィキペディア情報)そうです。
 以前にタイの大学で、手術の講習を受けたことがありますが(日本人講師で参加者も日本人)、その際にマッサージを受ける機会がありました。「タイ式マッサージ」と言うと街中で目立つ看板の店みたいですが、私たちが受けたのは、大学の伝統医学科でのマッサージで、大学という性格上、研究もおこなわれています。伝統的な、自国の医療を見直し、研究し発展させるということはどこの国でもあるだろうと思います。
 日本では「東洋医学」という言葉があります。東洋医学については、「現在日本の伝統医学業界では、古典医学書に基づく薬物療法・漢方医学と、経穴などを鍼や灸で刺激する物理療法・鍼灸医学、両者を合わせて東洋医学と呼んでいる」(真柳誠「西洋医学と東洋医学」 1997年)と述べられています。では日本において、東洋医学と西洋医学で患者の取り合いをしているということがあるでしょうか? 韓国においては、医師は鍼灸術を行ったり、韓(漢ではなく)方薬を処方することはできず、それらを独占的に韓方専門医が行うということになっています。しかし日本においては医師が、こむら返りに「芍薬甘草湯」を出したり、下肢むくみに「牛車腎気丸」を出したりします。私はできませんが、中には、鍼灸の勉強をして行っている人もいます(医師免許があれば、鍼は打てるので。ただ病院で保険診療として鍼灸をすることはできませんが)。
 話は変わりますが、本地垂迹説というのをご存じでしょうか? 「本地である仏が衆生救済のため,仮に日本の神となって現れたと説く神仏習合思想」と辞書にはあります。簡単に言えば、たとえば奈良の春日大社と興福寺は一体のものであったわけですが、仏が、仏教の教えを説くために、親しみやすい日本の神の姿で現れたとする考え方です。歴史は古く長く、奈良時代から明治初期まで存在していました。日本では外来のものと日本固有のものが、なわばりを主張するのではなく、巧みに融合して「日本のもの」になる文化があるようです。だから私たちの前には、西洋医学も東洋医学もなく「医学」あるのみです。

整形外科 中尾慎一