堀口コラム 閑話

2022年4月19日 更新

後医は名医

 後出しジャンケンは負けません。もちろん相手が出す手がわかっているので、その後有利な手を出せば良いからです。しかし相手に「負けてあげたい」と思ったら、負ける手を出すこともあるでしょうが。
 話は変わりますが、東京のある大学(日本で一番入るのが難しい大学)のある科で、その教授が退官時に自身の教授就任中の誤診率を発表しました。厳密な方法で突き止められたその誤診率は、14.2%というものでした。当時、一般の患者さんたちはその誤診率の高さに驚き、一般の医師たちはその誤診率の低さに驚いたとのことです。
 前の病院で間違った診断をされて、当院に来られて、正しい診断ができたということは何度もあります。肉離れと言われていたが骨折だったり、腰椎のヘルニアと言われていたが、圧迫骨折だったり、両下肢のしびれ・脱力があり、頭は異状ないと帰された後に、当院にきて胸椎の病変だと判明したり…。私の努力も少しは評価して頂きたいところではありますが、正しく診断できた最も大きな理由は、私が2番目(もしくは3番目)に診察できたということです。後から診る医者には有利な点がたくさんあります。前医の診断、効かなかった治療内容、発症からの時間経過、初診時よりも特徴の出ている画像など、初診の先生は得られなかった情報がたくさんあるからです。もちろん、当院で間違った診断をして、他院で正しく診断されたという例もあると思います。このように後から診る医師の方が圧倒的に有利な状況を「後医は名医」といいます。
 前述のT大の教授の科は、診断の難しい病気を扱う科ですし、その当時よりも現在の方がCT, MRIなどの画像精度が上がっています。だから誤診率は、現在の、しかも整形外科に当てはまるものではないと思います。しかし誤診は残念ながらあります。だから診断の難しい病態に直面した時は、できるだけ断定はしないで(というよりもできないので)、もう一度来ていただくようにしております。ご迷惑かもしれませんが、決して再診料を稼ぐためにお呼びしているわけではないので、どうか正しい診断に結び付けるためにお付き合いください。

整形外科 中尾慎一