堀口コラム 閑話

2022年4月4日 更新

いわゆる「圧迫骨折」について

 正しい言い方というものがあります。「押しも押されもせぬ」「独擅(せん)場」「侃侃諤諤(かんかんがくがく)」などの正しい表現は、「押しも押されぬ」「独壇(だん)場」「喧喧諤諤(けんけんがくがく)」に圧倒的に負けています。いずれも誤った使い方が定着し、本家(正しい言葉)を駆逐していったものです。言葉が残っていく基準というのは、多数派が使うかどうかだけであり、正しさという概念は無関係であると言えるのかもしれません。「悪貨は良貨を駆逐する」というわけではないのでしょうが。
 (脊椎)圧迫骨折という言葉があります。通常、骨粗鬆症となった高齢者が、わずかな外力により、脊椎が折れてしまう骨折ですが、交通事故でも、屋根から落ちても、柔道で倒されても全部圧迫骨折というので、10年以上前、骨粗鬆症学会で、「圧迫骨折」ではなく、「骨粗鬆症性椎体骨折」と呼びましょうという提言がありました。その結果…、やはり「圧迫骨折」が圧倒的な主流です。
 さて、この圧迫骨折ですが、3分の2の人が痛みを感じないということがあります。テレビCMでも流れていたとおり、「いつの間にか骨折」というわけです。そういう方は、後日、他の理由でレントゲンを撮った時に、「折れたことがありますね」と言われることになります。しかしやはり骨折なので、痛みのために動くことができないと病院を受診される方もあります。私が医者になった二十数年前の治療としては、安静にベッドで寝てもらい、コルセットを作成し、コルセットが完成したら、リハビリで少しずつ起こしていくというものでした。時は流れ、現在、どのような治療をしているかと言えば、相変わらず、その選択肢だけという病院は今でも多いのではないでしょうか。
 圧迫骨折で一番問題になるのは、そこで変形してしまうことです(腰曲がり)。骨折した骨は、保存的(手術をしないで)にくっつく可能性は高いです。通常1か月を過ぎる頃から、骨がつき始め、その頃から痛みは楽になってきます。しかし変形は元には戻らないので、その場所で腰が曲がってしまい、腰が曲がっていることは、新たな腰痛を生む可能性があります。その腰曲がりを防ぐために、骨を風船で膨らませて、その場所に骨セメントを入れるというBKPという手術が存在しています(ちなみに骨折の痛みも手術後すぐに治まることが多いです)。5mm程度の創が2か所で、30分程度で終わるこの手術ですが、2011年から保険適応となっており、決して最新の治療というわけではありません。この治療の独擅(せん)場にはならなくていいので、誰もが知っている選択肢の一つになってもらいたいものです。

整形外科 中尾慎一