堀口コラム 閑話

2022年3月9日 更新

脊椎内視鏡の世界③

 手術をするには麻酔が必要です。では世界で初めて全身麻酔による手術をおこなったのは誰なのでしょう? 和歌山の方には簡単すぎる問題かもしれません。答えはもちろん華岡青洲で、麻酔薬「通仙散(つうせんさん)」、別名「麻沸散(まふつさん)」を用いて、1804年に全身麻酔下での外科手術を成功させるのです。欧米での最初の全身麻酔は、その40年後なのですから、その偉大さがわかるというものです。華岡青洲は、曼陀羅華(まんだらげ)、別名チョウセンアサガオを主原料に麻酔薬を開発したのですが、そのチョウセンアサガオの花は和歌山県立医科大学の校章となっております。
 華岡青洲は現在の和歌山県紀の川市の生まれで、現在の「青洲の里」からそう遠くないところです。復元された春林軒(住居兼病院・医学校)に行きますと、人形と昔ながらの紀州弁のセリフが流れてきて、当時を偲ばせてくれます。ただ今の時代の病院を知っている者からすると「こんなところで手術か」とも思ってしまいますが。話は違いますが、札幌に華岡青洲記念病院というところがあり、遠く北海道でも華岡青洲を尊敬する人がいるのかと思っていたら、華岡青洲の子孫の方でした。
 青洲は華佗の医術を意識しており、麻沸散は、華佗が使ったとされる麻酔薬の名であるそうです(ウィキペディア情報)。華佗は三国時代の医師で、あの曹操の典医にもなっていて、マンガ三国志にも出てきます。華佗は麻沸散を使って腹部切開手術を行なったという話があり、そうなると華岡青洲の1600年前に同様の手術を成功させていた可能性もあるという話になってしまいます。
 ここで、脊椎手術の話を。通常、脊椎の手術は創の大きさ16mmの内視鏡と言えども、全身麻酔で行われます。創16mmの内視鏡はMED法といい、全国で広く行われている手術です。一方、局所麻酔でもできる脊椎内視鏡もあります。それはPED法という内視鏡で、8mmの創で、体の中心部分ではなく、10cm程度中心から離れたところから、直接、椎間板の中にカメラを挿入します。この方法なら入院期間を短縮でき、忙しい方なら一泊二日も可能となっています。当院でも私が行っておりますので、ご相談ください。
 最後に、華佗で連想してしまった犍陀多ですが、あの時、自分だけ助かろうとしなければ、糸はみんなの重量を支えてくれたのでしょうか? 「みんなを助ける」は本当に難しいチャレンジだと思ってしまいます。

整形外科 中尾慎一