堀口コラム 閑話

2022年2月22日 更新

脊椎内視鏡の世界②

 「侵襲」という言葉があります。侵襲とは、「生体内の恒常性を乱す事象全般を指す医学用語」だそうです(簡単に言えば傷つけること)。私たち外科系の医師は、手術をすることが多いのですが、その手技は間違いなく侵襲にあたります。侵襲が大きい方がいいか、小さい方がいいかは、もちろん小さい方がいいわけです。そのため、「低」侵襲とか「小」侵襲のように、私たちの手術は、そんなに侵襲を与えませんということを手術の特徴にできるわけです。
 整形外科では「最小侵襲整形外科学会」などというものもあります。その学会で発表されている演題でも「本当に最小侵襲?」というものはいくつもあります。それでも従来の(昔ながらの)方法とは違うことで、なるべく患者さんに侵襲を与えないように工夫をされておられる演題が多数あり、興味深いです。ただし手術である以上、その目的を完遂するということが一番大事なことであり、傷は小さいけれども、目的を達成できていないということでは困るわけです。そこに従来法を続ける先生の存在価値というものがあります。傷は大きいけれども、患部はきちんと取り切って、術後の生活も不便を感じないということでしたら、特に小侵襲にこだわる必要はないのかもしれません。
 私は、16mmの創、あるいは8mmの創での内視鏡をつかって、小侵襲にはこだわって手術をしています。頚、胸、腰の神経の圧迫をとる手術で内視鏡が使われるわけですが、患部は最大限の除圧をして、それ以外の正常部分は、なるべく触らないということは、内視鏡では可能であると信じておこなっています。一般の方は、傷が小さければ小侵襲で、大きければ大侵襲と思っていらっしゃるかもしれません。しかし本当の小侵襲は、正常組織を極力残すことであるので、小さい創でもたくさん正常組織がなくなっているような手術もあれば、それなりの創でも、骨の中だけくり抜いたような魔法のような手術ができる先生もいらっしゃいます(私は寡聞にして、そんな先生は一人しか知りませんが)。侵襲が大きいかどうかは術後のMRIやCTをみればわかります。患部はきっちり治っているが、その他は元の画像と変わりがないというのが、一番の小侵襲だと思います。
 医者に手術を勧められた時、どのような言い方をされるでしょうか? 「内視鏡と変わらない創でできるよ」などと言われたら、それは最低の言い方でしょうね。小侵襲は創の大きさだけではありませんし、実際、同じ創の大きさではできないでしょうから。手術はいろいろな方法があります。ただその方法を勧めるのだとしたら、その手術の利点を強調するものであってほしいと思います。

整形外科 中尾慎一