堀口コラム 閑話

2021年10月4日 更新

椎間板ヘルニアの注射の話

 「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね」なんともトロピカルなこの歌。歌っていたのは中原めいこさんで、カネボウの夏の化粧品キャンペーンソングでした。カバーされたりもしているので、中高年以外でも知っている方がいるかもしれません。この曲が発売されたのが1984年でした。
 料理の世界で肉をやわらかくするレシピで出てくるパパイ(ヤ)ですが、パパイアの酵素が肉を溶かしやわらかくします。パパイアかパパイヤ。どちらが本当なのか、例によってウィキペディアで調べてみると「パパイア」は園芸学会での正式名称で、「パパイヤ」は農業界での正式名称だそうです。
 それはさておき、「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね」が発売された頃に、アメリカを中心とした世界中でパパイアの成分を使った椎間板ヘルニアの治療が行われておりました。「キモパパイン療法」というこの治療は、パパイアなどに含まれるキモパパインという蛋白分解酵素を椎間板内に注入することで、椎間板の中身の髄核というクッションのようなものを溶かし、ヘルニアを縮小させるものでした。しかしこの治療法は、アナフィラキシーショック、麻痺や重度の腰痛などの重篤な副作用の発現により,施行されなくなったという歴史があります。日本でも導入しようと臨床試験が行われていましたが、認可はされませんでした。その後30年ほど椎間板ヘルニアの酵素注入療法の話が出ることはなかったのです。
 時は流れ、現在、再び椎間板ヘルニアに対する注射が脚光を浴びています。商品名ヘルニコアという注射は椎間板内酵素注入療法として、すでに日本で認可されており、たくさんの患者が治療を受けておられます。コンドリアーゼという酵素を注入するのですが、これが髄核を構成している一部の成分を壊し、その保水力を減じることで椎間板の圧を下げて神経への圧迫を軽減します。キモパパインで報告されていたような有害事象はほとんどなく、安全性は高い治療法であると言えます。ほとんどの施設で1泊2日で施行しており、注射は難しいものではありません。治療法の一つとして考えてみるものいいかもしれません。

整形外科 中尾慎一