堀口コラム 閑話

2021年8月16日 更新

~の「気(け)」の話

「あなたはヘルニアの『気(け)』がある」と言われたことはないでしょうか? 整形外科でヘルニアと言えば、椎間板ヘルニアのことであり、さらに、その圧倒的多数が腰の椎間板ヘルニアです。背骨の骨と骨の間にある椎間板で、周囲を覆っている線維輪という組織が損傷して、内部の髄核というクッションの中身が出てきて、それが神経を圧迫することで症状がでます。腰椎椎間板ヘルニアで起こり得る症状としては、腰痛、脚(足)の痛み、脚(足)のしびれ、脚(足)の筋力低下、膀胱障害(尿が出にくくなる)、直腸障害(便秘になる)、間欠性爬行(長く歩くことができない)などです。
 さて「気(け)」ですが、goo辞書の漢字辞典で「気」を調べてみると、(1)〈キ〉 ①息、②ガス体、③天地間に生じる自然現象、④宇宙と人間の根底にあるとされるエネルギー、生命の活力、⑤精神・感情の働き、⑥何か特有のようす、⑦一年を二四分した期間、(2)〈ケ〉 ①ガス体、②心の働き、気持ち、③ようす、④病気 とあります。つまり「き」と読むか「け」と読むかで少し意味合いが違うようです。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
  漢字には音読み、訓読みがありますが、気の「き」と「け」はどちらも音読みです。ただ「き」は漢音、「け」は呉音という違いがあります。ウィキペディアによれば、「呉音とは、漢音を学び持ち帰る以前にすでに日本に定着していた漢字音をいう」とあります。赤塚行雄さんが「『気』の文化論」に書かれていることを一部抜粋要約させてもらうと、「源氏物語の時代、『け』は辺りを漂うもので、悪い『け』にあたると病気になったりすると考えられた。そうした時代は、神仏に祈ったり、まじなったりする以外に手がなかった」「太平記のころから『気』を強くもって生きれば大抵のことは実現できるという意識が生まれた」と、抵抗できない存在をコントロールしていこうとする日本人の思いが見て取れます。
 腰椎椎間板ヘルニアは、現在では、得体のしれない、抵抗できないものではありません。自然に治ることもありますし、治す注射もありますし、創(きず)がわずか8mmでできる内視鏡の手術もあります。気圧されることなく、気を強くもって、治療していきましょう。

整形外科 中尾慎一