堀口コラム 閑話

2021年7月20日 更新

宇宙飛行士の骨とネズミの骨

 宇宙に行きますと、様々な健康問題が起きます。JAXA(宇宙航空研究開発機構)のホームページに詳しく載っておりますが、放射線の被爆、精神的な問題以外は、ほぼ微小重力(重力が極端に小さいこと)に起因しています。宇宙酔い、顔のむくみ、鼻詰まり、筋肉の萎縮、骨量の減少などがありますが、数週間で改善する宇宙酔いなどと異なり、筋肉の萎縮、骨量の減少は、宇宙にいる間、ずっと進み続けます。国際宇宙ステーションでは、筋肉や骨の衰えをできる限り予防するために1日に2時間の運動をしています。
 骨量の減少が一定の値を超えることを骨粗鬆症といいます。宇宙は極端な例ですが、地球上でも運動できない状態(寝たきりとか)では、骨粗鬆症になります。ネズミでも運動できなくなれば、骨粗鬆症になります。それでは人間の骨とネズミの骨の違うところは何でしょうか? もっとも大きな違いは、人間の骨は大きさを変えることなく、新しい骨を作って、古い骨を壊しているというところです。このことを「リモデリング」といいます。一方ネズミの骨はずっと大きくなり続け、骨量を増やしていきます。これを「モデリング」といいます(人間でも成長期はこちらが主体です)。
 骨粗鬆症には、たくさん骨を壊しているもの、ビタミンD・Kが足りないもの、骨をあまり作っていないものなどのタイプがあります。もちろんこれに合わせて薬が存在しているので、骨密度を測って骨粗鬆症とわかってもそれだけでは薬は決められません。骨粗鬆症のタイプを調べるのに有用な検査は血液検査です。「骨代謝マーカー」と呼ばれるいくつかの項目を調べれば、自分に合った骨粗鬆症治療薬を見つけることができます。さらに一定期間治療して、もう一度血液検査を行えば、その薬が効いているかどうか判定することもできます。
 骨粗鬆症患者は、脚の骨折で歩けなくなったり、背骨の骨折で麻痺がでたり、はたまた骨粗鬆症のために動脈硬化になるとおっしゃっている内科の先生もいらっしゃいます。一般の方が思っているより、ずっと大事な骨粗鬆症治療ですが、骨粗鬆症財団が発表している2015年のデータでは和歌山県の骨粗鬆症検診の受診率は、全国で下から2番目でした。1位(上から)は栃木県です。同じ東照宮のある県ですし、追いつきたいものです~という結びにしようと思ったら、東照宮は全国で130社くらいあるそうです。

整形外科 中尾慎一