堀口コラム 閑話究題
こちらのコーナーでは当院のスタッフが医学的な事柄や趣味の世界についてなど、様々な記事を掲載していく予定です。
無駄に思えても、実は意味があるというものがあります。余談のはずが「誰か」の、「何か」の答えになっていたり。我々のコラムを通して、そのような出会いがあれば、幸いでございます。 |
整形外科 中尾慎一 |
2023年4月7日 更新
安楽椅子探偵
Armchair Detective. 日本語では「安楽椅子探偵」。自らは現場に赴くことなく論理的思考で事件を解決するタイプの探偵です。私はこれが究極の格好良さだと思っていて「思考機械(と呼ばれる探偵)」などと聞くとゾクゾクします(読んでみると想像していたよりもハマらなかったけれど)。ちなみに安楽椅子とは、肘掛けのある大きな休憩用の椅子で、編み物をしている女性が揺れている姿がイメージされるロッキングチェアとは別物です。
椅子に座って事件を解決するというと、最近(正しくは、最近まで新刊が出版されている本)の中で好きなのは、リンカーン・ライムシリーズでしょうか。ボーンコレクターが映画化されているので、知っている人も多いかと思います。彼(リンカーン・ライム)は、元ニューヨーク市警の警部で科学捜査の専門家です。誰よりも現場を重んじ、自身で捜査するライム警部は「安楽椅子探偵」とはかけ離れた存在でした。しかし現在の彼は、椅子は椅子でもwheelchair (車椅子)から離れられない存在になっています。 事故により四肢麻痺(手も足も動かない状態)となった彼は退職を余儀なくされます。しかしある事件をきっかけに、代わりに現場検証をしてくれる相棒や捜査を手伝ってくれるチームが結成され、私人ながら警察に協力する科学捜査の専門家としての地位を確立します。
リンカーン・ライムが四肢麻痺となった原因は頚髄損傷です。背骨(せぼね)の中で首の部分(頚椎)、胸の部分(胸椎)の中には脊髄という神経(頚髄、胸髄)が存在します。脊髄は損傷したら元には戻らない組織で、手足、内臓に走っているすべての神経の通り道です(脳から直接枝分かれしている神経は別ですが)。したがって、(完全)損傷すれば、その部位よりも下の部分はすべて動かなくなります(頚髄損傷では四肢麻痺、胸髄損傷では両下肢麻痺 内臓は勝手に動きますが、調整ができなくなります)。
脊髄損傷は怖い怪我です。最悪の場合、動かせるのは頭だけということもあります。不幸な事故の結果ということが圧倒的に多いですが、もともと脊柱管という神経の通る空間が狭い人がいて、脊髄が押さえられることによる症状があることもあります。手のしびれが初発症状のこともあり、注意が必要です。ただリンカーン・ライムも治療を受け、少し片手の指が動くようになっています。現在では高度な医療機関では脊髄再生に取り組んでおり、成果が出つつあります。未来に期待です。
整形外科 中尾慎一
コラムアーカイブ(過去のコラムはこちらからご覧ください)
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2022年3月9日 | 脊椎内視鏡の世界③ | 2022年2月22日 | 脊椎内視鏡の世界② |
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